言葉というものは長い時をかけて使われていくうちに
読み方だったり、意味だったりが変化していくものです。
例えば、失笑というワードが、本来は
こらえきれずに吹き出してしまう
という意味だということをご存知でしょうか。
時代とともに意味が変化していく事に異論はありませんが、
それでも折角使用するなら、
一応正しい意味で使用したいじゃないですか。
ということで、今回は誤用が多い
失笑
という言葉について
- 本来の意味
- 誤用されている理由
などを調べてみました。
大事な場面で間違えて使用して
「失笑」されることのないように気をつけましょう
失笑の使い方は間違えられやすい?本当の意味や使い方は?
皆さん失笑と聞くとどんなイメージを持っていますか?
呆れて笑いも出ない
というイメージの方が多いかと思います。
事実、過去に文化庁が調査した内容によると
6割を超える人が上記のように
呆れて笑いも出ない
という意味で回答しています。
ですが、本来の意味は真逆で
こらえきれず吹き出してしまう
というのが正しい意味なんです。
なので正しい使い方は、
彼のちぐはぐな格好に失笑してしまった。
先生が板書する姿がクセがすごすぎて失笑してしまう。
という感じでしょうか。
笑ってはいけないのであるけれど、思わず笑ってしまう。
そういう状況で使用するのがベストですね。
かの有名な文豪、芥川龍之介も著書「毛利先生」の中で、
流暢に英語を話す先生が、日本語訳を読む際、途端にたどたどしくなる様に、
周囲の生徒たちが笑いを漏らす場面を
先生がそこを訳読し始めると,再び自分たちの間には,そこここから失笑の声が起り始めた。
出典:芥川龍之介「毛利先生」
と記しています。
声が起こり始めたという風に、笑い声が上がっている様がよく分かるかと思います。
失笑の語源を知れば本来の意味に納得できる?
失笑の正しい意味を理解するには、
失笑の語源を説明すると良くわかります。
失笑に使われている「失」という文字。
これには
- なくす
- うっかり
- あやまり
と言った意味があります。
失笑では、このうちの
うっかり
という意味がかかっています。
同じような言葉で言うと
- 失言
- 失火
- 失禁
などがありますね。
どれもこれも、
やってはいけないことを、うっかりしてしまう。
という意味合いだということはご存知かと思います。
失笑もこれらの仲間で、
笑っては行けないような場面で、
思わず吹き出してしまうことを
失笑と言います。
失笑の意味が間違われているのはなぜ?「失笑を買う」の意味や使い方のせい?
語源を見ていただければ、
逆に間違えにくい気がするのですが、
そうはいかないのが、この「失」という文字のいやらしいところです。
「失」には
うしなう
という意味もあります。
これがかかる言葉に
- 失望
- 失恋
- 失業
などがあり、これらは正しく
〇〇を失った。というそのままの意味として使用されています。
そのため失笑という熟語も
笑いを失った=笑えないほど呆れてしまった
というふうに捉えられていることが一つの要因でしょう。
慣用句の使い方にも原因がある?
「失」という言葉が持つ意味の他にも、
失笑という熟語の使われ方にも要因の一つがあります。
失笑という言葉は、単体での仕様のほか
- 失笑を買う
- 失笑が漏れる
- 失笑が広がる
などという慣用句で使用される事もままあります。
特に「失笑を買う」というワードはよく聞くのではないでしょうか。
失笑を買うという慣用句の意味は
愚かな愚行をして笑われる
という意味です。
馬鹿な事をして、思わず吹き出されている。
という状況が、まさに「失笑を買っている」のですが、
ここにはある種の「呆れ」が含まれている事が常です。
だって、笑ってはいけない状況で、
馬鹿なことをしている人を笑う場合には
少なからず「呆れ」の気持ちが混じってしまうでしょう。
馬鹿なことをしている人に思わず笑ってしまう時に
「いやー、お前めっちゃおもろいやんww」
とはなりませんよね。大体は
「お前ほんまアホやなww」
ってなるかと思います。
このことから「失笑を買う」という状況に
少なからず呆れている姿が連想されてしまい、
結果として失笑という言葉に「呆れ」という意味が
付随したのだと推察されます。
また、似たような使い方で
- 失笑を禁じ得ない
- 失笑が漏れる
という使い方もあります。
どちらもちょっと「小馬鹿にした」意味合いに取れるため
上記の「失笑を買う」の呆れた様子も重なり
失笑=小馬鹿にする≒呆れる
という構図が出来てしまったのだと考えられます。
ちょっと馬鹿にした笑いが、似たような「呆れ」に結びつき
「失」の持つ意味が「うしなう」
という意味に誤解されてしまい、
失笑=呆れて笑えない
と誤用されるようになったというのが最終的な推察です。
「失笑を買う」の正しい使い方や例文は?
私のせいで諸悪の根源のようになってしまった
失笑を買う
というワードですが、しっかり正しい使い方を例に出すことで
供養したいと存じます。
シーン1:会議中にトンチンカンな発言をし、場を和ませたと勘違いしている同僚に対して
お前の的外れな意見は失笑を買ってたよ。
シーン2:真っ昼間のパーティーにタキシードで現れた別の友人に対して
お前さ…その格好じゃ失笑を買うぞ?
(注:タキシードは元々ディナースーツと呼ばれ夜間に着用するのがルールです)
いかがでしょうか。
基本的に「失笑を買う」=「笑われるぞ」のように使用していただければいいと思います。
笑わせると笑われるの違いはご存知の通り、
やはりどこか「小馬鹿」にした意味合いが含まれてしまいますね。
なるべくなら「失笑を買わない」人生を歩みたいものです。
失笑の本当の意味や使い方のまとめ
今回はよく聞く「失笑」という熟語についてまとめてみました。
殆どの方が思っている
呆れて笑いも出ない。
という意味ではなく、
思わず吹き出してしまう。
という意味でした。
一見すると真逆にも近い状態でしたが、
その実、その漏れ出た笑いには「呆れ」であったり
「小馬鹿」にしたようなニュアンスが含まれていることが往々にあります。
そのせいで「失」という言葉のもつ意味が間違えられてしまい、
失笑=笑いを失う=呆れて笑えない
と誤用されることになったのだと推察します。
失笑されることがないのが一番ですが、
もしそういった場面にでくわしてしまったら、ぜひ
「ちょー、失笑せんといてーや」
と言ってみて下さい。
「いや、笑ってたやん」
って答えられたらぜひ
「え?失笑の意味も知らんとか失笑するわ、プークスクスww」
と答えてあげて下さい。
多分失笑という言葉か、友情ががゲシュタルト崩壊するかと思いますが、
当ページはその責任を一切負いませんので悪しからず。